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東京地方裁判所 昭和26年(ヨ)4065号 判決

申請人 全三越従業員組合

右代表者 中央執行委員長

申請人 斎藤一衞 外十四名

被申請人 株式会社三越

一、保証 無保証

二、主  文

申請人A、同B、同C、同D、同E、同Fに対する被申請人の昭和二十六年十月二十五日附をもつてなした解雇の意思表示の効力を停止する。

その余の申請人らの本件申請を却下する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

三、事  実

第一申請の趣旨並に理由

申請人ら代理人は(一)被申請人が昭和二十六年十月二十五日附をもつてなした申請人A、B、C、D、E、Fに対する解雇の意思表示の効力を停止する、(二)被申請人が昭和二十六年十月二十五日附をもつてなした申請人G、H、I、J、K、L、M、N、Oに対する譴責処分の意思表示の効力を停止する、(三)訴訟費用は被申請人の負担とするとの裁判を求め、次の通り述べた。

一、被申請人(以下会社という)は百貨店業等を営む株式会社であつて、本店を東京都中央区日本橋室町一丁目七番地に有するほか、東京都内銀座及び新宿、大阪、神戸、高松、松山、仙台、札幌、京都等の各地に支店を有し、その従業員は四千余名であり、申請人組合(以下組合という)は、被申請人の従業員をもつて昭和二十一年十一月組織された単一労働組合であり、本店及び各支店にその支部をおき、その組合員は三千八百余名であり、申請人組合を除くその余の申請人らは、いづれも右組合の組合員である。

二、被申請人は、昭和二十六年十月二十五日、申請人A、B、C、D、E、Fに対し、今次給与改訂に関する会社組合間の紛議に際して行われた組合の協約違反不当行為につき、右申請人Aが組合中央闘争委員長、同B、Cが各組合中央副闘争委員長、同Dが組合中央闘争委員会書記長、同Eが組合中央闘争委員組織統制部長、同Fが組合中央闘争委員企劃部長として、いづれも重い責任を有するものと認め、労働協約第三十八条第一項第一号及び第二号に照し、右日時をもつて即時解雇する旨の意思表示をなし、また申請人G、H、I、J、K、L、M、N、Oに対し、前記組合の協約違反不当行為につき、右申請人らが意思決定並にその実施について重い責任を有するものとして懲戒譴責したのである。

三、被申請人は右のように今次給与改訂に関し、組合に協約違反不当行為ありとしているが、給与改訂問題は、次の如き経過により昭和二十六年七月十七日解決したものである。即ち、

会社組合間の現行労働協約(以下協約という)は、昭和二十六年四月二十七日締結され、その有効期間は右締結の日より一箇年であるところ、組合は同年四月二十四日臨時大会において基準賃銀を一万七千円とする賃金体系改正案を可決し、五月二日会社に対し右交渉のため中央労働協議会の開催を申入れ、右協議会は同月九日より六月八日まで前後十七回開催されたが一致しなかつたので、六月十六日以降組合と会社の団体交渉に移され、三回の交渉がなされたが、六月十九日に至り遂に決裂するに至つた。よつて組合は、同日闘争委員会を設置し、申請人Aは中央闘争委員長、申請人B、G、Cは、中央闘争副委員長、申請人Dは中央闘争委員会書記長、申請人Hは、同会会計部長、申請人Eは同会組織統制部長、申請人Iは同会交渉部長、申請人Fは同会企劃部長、申請人Jは同会宣伝部長、申請人Kは同会情報連絡部長、申請人Lは同会共同闘争部長、申請人Mは同会渉外部長、申請人Nは、同会総務部長、申請人Oは同会補給部長となり、同委員会は同日中元時における時間延長及び休日営業に関する協定を一切拒否すべき旨の中央闘争委員会指令第二号を決しこれを各支部に発し、同月二十日右賃金問題につき東京都地方労働委員会(以下都労委という)に調停の申請をなした。都労委における調停の結果七月十日調停案が提示され、その回答期限である同月十六日組合はこれを承諾したのに会社は条件を附して承諾したため、都労委より条件の撤回を勧められ、その回答を十六日午後八時とされたに拘らず、回答をなさゞりしため、右委員会は会社の態度を遺憾とし会社及び組合員に対し組合の強固な団結力を誇示するため、翌十七日東京三店において所謂定時出勤の措置をとつたところ、都労委の斡旋も続けられ、会社も調停案を受諾し、同日午後五時頃調停成立に至つたのである。

四、然るに、会社は七月二十一日組合に対し、今次賃金改訂に関する紛争につき組合が中元時における休日営業並に時間延長に対し全面的に拒否し、会社に対し甚大な損害を与え会社の信用を毀損したことは労使間の信義則を甚だしく破るものであり、また東京三店において、組合が指令を発し、七月十七日の出勤時に際し所謂遵法闘争と称して故意に出勤時間を遅延せしめたるは、一種の争議行為で協約第百四十三条及び第百四十四条に違反するもので、会社はこれらの行為より生ずる組合の責任を追及する一切の権利を留保するものなる旨の通告書を交付し、更に九月二十五日組合に対し、組合の右措置を協約違反と断じ、協約第四十六条第四十八条及び第四十九条違反の件及び協約第百四十条第百四十三条及び第百四十四条違反の件を議題として、中央苦情処理協議会の開催を申入れる旨の申入書を交付したのである。よつて組合は右申入れに応じ、右協議会が開催され会社の指摘する前記組合の行為につき前記協約条項違反の有無が審議されたが、意見一致せず何等の結論をも生じなかつたのである。次で会社は十月十二日に至り、書面により組合に対し、組合の前記協約違反につき中央闘争委員の責任を検討し協約第三章第五節に照し懲戒するため中央考査委員会を開催したき旨申入れたが、組合は、右協約違反についての会社組合間の不一致を団体交渉により解決せんとし、十月十七日その申入れをなしたるに、会社は、これを拒否し前記のように十月二十五日懲戒解雇の意思表示をなし、譴責の処分をなしたものである。

五、然しながら、右解雇並に譴責は次の如き理由により無効である。

(一)  前記中元時における休日営業及び時間延長の協定の拒否は、組合の当然なし得る行為であり、協約第四十六条第四十八条及び第四十九条は協議を成立せしむべき義務を定めたものでないから、右行為は協約の右条項に違反するものでなく、また前記定時出勤の措置は、組合が団結を示すためになした団体行動にして争議行為でないから、協約第百四十条第百四十三条及び第百四十四条に違反するものでない。従つて申請人らには会社のいう懲戒事由なく、前記解雇並に譴責は不当のものである。申請人らに懲戒事由なきに拘らず、被申請人が敢て前記解雇並に譴責をなしたるは、

(1) 会社の常務取締役本店長aは、昭和二十六年六月二十一日午後六時半頃、当時組合の本店連合支部が本店地下大食堂において総会開催中、議長の許可なく会場内を縦断して食堂別室に入り総会の発言を聴取し、総会をして一時発言中止に至らしめ且総会の運営に無言の圧迫を加えたこと。

(2) 会社の常務取締役bは、同年七月三日組合の闘争委員長に対し、前記中央闘争委員会指令第二号の撤回を希望する旨の記載しある抗議文を交付し且これを本店掲示場に掲示して、暗に組合の運営を圧迫したこと。

(3) 右bは、同年七月二十一日、九月二十五日、十月十二日に組合の中央執行委員長等に対し、前記四に記載のように、組合の責任を追及する権利を留保する旨等の書面を交付して、暗に組合の運営に圧迫を加えたこと。

(4) 昭和二十六年十月二十五日申請人O、K、Hに対し、会社は、懲戒処分を諒承する旨の捺印を迫り、拒否すれば不利益をもたらすべき旨告げて組合活動に対する圧迫の企図をほのめかしたこと。

(5) 同年十一月三日銀座支店家具部長cは、組合の銀座支部評議員Pをよび寄せその前日行われた東京三店合同評議員会の議事内容の報告を求め且つ今後の組合活動に従事しないことを勧請したこと。

(6) 同年十月十九日会社は、盗難火災防止の名目により、組合が会社より借用使用中の組合事務所における閉店時間後の執務につき残留の理由及び氏名を具した許可願出の方法をとつたこと。

(7) 同年十月二十四日会社は、従前組合が使用していた組合掲示板の撤去を求め、甚だしく不十分な個所における使用を強制せんとしたこと。

(8) 右同日会社は、組合が中央委員会開催のため会場使用を申入れたのに対し議題及び組合員以外の関係者の列席につき制限を附したこと。

(9) 同年十月二十六日会社は、組合が総会開催のため会場使用を申入れたのに対し組合員以外の関係者の列席につき制限を附したこと。

等の会社の組合に対する介入支配の行為に照し、なお、

(10) 会社が昭和二十三年より同二十四年に亘り、社長の提唱により社員の福祉厚生を目的とする名目の下に愛護会を結成し、組合の運営に介入支配し、これを解散に導かんとして組合活動に熱心な組合員を解雇したことがあり、これが都労委において審理されて、昭和二十四年二月十九日当事者間に協定成立し、会社は組合員の解雇を取消したこと。等の事情及び申請人らの組合役員としての従来の活溌なる活動、前記解雇及び譴責の理由として組合役員としての行為をあげている点からみて、前記解雇並に譴責は、被申請人が申請人らの正当なる組合活動を嫌忌し、これを理由として為した不当労働行為であることが明である。また被申請人は右解雇並に譴責により申請人組合の弱化を企てたるものであつて、右解雇並に譴責は、申請人組合に対する介入支配に当る不当労働行為でもあるのである。よつて前記解雇並に譴責は労働組合法第七条第一号に違反し無効である。

(二)  協約第三十八条の懲戒条項の適用については、第四十五条及び考査委員会規則により考査委員会に諮問すべきである。然るに会社は、前記懲戒解雇並に譴責につき右委員会に諮問をなさず、また当時これを経ず早急に懲戒処分をなさねばならない段階にも至つていなかつたことは明であるので、会社のなした前記懲戒解雇及譴責は当然無効のものである。

(三)  会社は、前記のように組合の団体交渉の申入れにも応ぜず、また、前記のように考査委員会の議を経ず懲戒解雇を強行したものであつて、これは解雇権の濫用であり前記解雇は無効である。

六、よつて申請人組合及び申請人A、B、C、D、E、Fは、前記解雇が無効にして右六名の申請人が現に被申請人の従業員たる地位を有することの法律関係の確定を求める訴を、また申請人組合及び右六名を除く其の余の九名の申請人は、譴責処分の無効確認の訴を提記すべく準備中であるが、右訴訟の確定をまつては、その間、申請人組合の組合活動は不当な圧迫を受ける虞があり、解雇された申請人ら六名は、解雇の取扱いを受けることによりその生活は危殆に瀕し、また譴責を受けた申請人ら九名は組合活動に不当な拘制を受けるので、これらの甚だしい損害を避けるため、申請人組合については、申請人らに対する前記解雇及び譴責の効力の停止を、右申請人六名については前記解雇の効力の停止を、右申請人九名については前記譴責の効力の停止を求めるため仮処分申請に及んだのである。

第二被申請人の主張

被申請人代理人は、申請人らの仮処分申請を却下する、訴訟費用は申請人らの負担とするとの裁判を求め、次の通り述べた。

一、本件仮処分申請の趣旨は、組合を除くその余の申請人ら個人に対する解雇及び譴責処分の効力を停止するものであつて、これは会社と右申請人ら個人との間の労働契約上の問題の効力に関するもので、組合は、これにつき実定法上何等か訴訟管理権が与えられていない以上、組合員各自の権利義務について訴訟追行をなし得るものでないから、組合は、右趣旨の仮処分申請をなす当事者適格を有しないものである。従つて組合の申請部分は、この点において直に却下さるべきものである。

また、申請人M及びGは、昭和二十六年十月二十五日付譴責処分を同日承諾しているので、同人らはも早これを争うことの出来ないものであるから、その仮処分申請はこの点において却下さるべきものである。

二、申請人らの主張する一乃至四の事実はこれを認める。五の(一)の事実中(1)乃至(3)の事実は組合の介入並に運営を暗に圧迫した点を除きこれを認め、(6)乃至(9)の事実は、組合の介入支配の点を除きこれを認めるも、その余の(一)の事実は否認する。右事実は建物管理の必要上その他正当の理由による措置で何等組合の介入支配になるものでない。五の(二)の事実は認めるも、(三)の事実は否認する。被申請人は、申請人らの主張するように、中央苦情処理協議会の開催を申入れ、九月二十七日より三十日まで四回に亘り協議会を開催し審議した。組合側委員は会社側の主張を異議なく承認していたが、十月十一日に至り協約に違反するものでないとの回答を寄せるに至つた。会社は協約違反なりと信じ懲戒すべきであると確信したので申請人らの主張するように中央考査委員会の開催を申入れたところ組合側は応ぜず却て団体交渉の申入れをしたが、会社は前記のように意見が対立し団体交渉の余地がないと考えたので、再三中央考査委員会の開催を促したが、拒否して応じないので、中央考査委員会の開催は事実上不可能となつたので申請人ら主張のように懲戒処分をなしたものである。申請人らの主張の六の事実は否認し、仮処分の必要性を争う。

三、前記解雇並に譴責の処分は次の理由により有効である。

(一)  給与改訂の紛争については、申請人らの主張するような経緯により、都労委において調停に付され、都労委は昭和二十六年七月十日調停案を提示し、その回答期限を七月十六日正午と定めたところ、会社は実施方法につき若干の条件が容れられるならば承諾する用意あることを回答し、一方組合は右調停案を承諾した。都労委は会社に対し条件の撤回を求めその回答を七月十七日午後一時と指定したところ、組合は右回答期限に異議を述べ、七月十六日午後八時を主張したが同日午後五時に回答期限を十七日午後一時とすることに都労委、会社、組合の三者間で諒解が成立した。然るに組合は右十六日夜所謂定時出勤を指令し、翌十七日東京三店においてこれを敢行し会社の業務運営に支障を来さしめ多大の損害を与えた。会社は組合の不信なる暴挙に調停案に応ずる余地なしと断ぜざるを得なかつたが都労委の斡旋にやむなく応じ、協定の解釈についての疑義に関しては都労委の解釈に従うと共に調停案の実施事項につき協議整わない場合は都労委の斡旋に附する旨の附帯的協定をなして調停案を承諾し、ここに調停が成立したのである。

而して、組合は、その主張のように調停申請に先ち六月十九日指令第二号を各支部に発したのであるが六月二十九日及び七月三日会社より、調停中右指令の撤回を求め、また都労委よりも撤回の勧告ありたるに拘らず、組合は到底受諾出来ない条件を附し事実上撤回を拒否して右指令を維持し、各店毎の協議を不能ならしめて、会社をして、中元時の休日営業及び時間延長を不可能ならしめ、よつて会社に多大の損害を与え、また組合は右指令第二号は残業協定を含むとの拡張解釈を指示し、よつて東京三店における六月一日乃至七月三十一日間の時間外労働の協定を遷延して漸く七月三十日に協定成立するに至らしめたのである。

(二)  而して、右指令第二号の発令、その拡張解釈の指示並に定時出勤の措置は、申請人らが中央闘争委員会の幹部として、互に意思相通じ、組合の闘争手段としてとつた措置であり、これに基いてなされた組合の前記行為は、協約違反行為乃至協約の平和条項に違反する不当な争議行為であるから、申請人らは右措置により、組合をして協約違反乃至は平和条項違反の不当な争議行為をなさしめ、会社の規律秩序を紊乱し業務の正常なる運営を阻害し会社に莫大な損害を与えたものである。

即ち、

(イ) 申請人らは、昭和二十六年六月十九日前記指令第二号を各支部宛に発し、組合をして各店における中元時における休日営業及び時間延長の協議を拒否せしめ、会社をして右営業をなすことを不可能ならしめて、多大の損害と信用の毀損を会社にもたらしめた。協約第四十六条第二項には「始業及び終業の時刻につき会社は各店毎に組合と協議して定める」とあり、また第四十八条第二項には「左の場合には会社は各店毎に組合と協議の上前項の休日を他の日に変更し又は振替えることがある。(1)中元時の休日の一日、(2)その他特別の事由のあるとき」とある。而して、中元時の休日営業及び時間延長は百貨店営業上必要欠くべからざるものにして、会社の創業以来の慣行であるのみならず同業各社でも同様にかゝる制度がとられて居り、これは我が国古来からの社会慣行に基く顧客の便益を考慮したものであり、協約において、右に関する協議を各店毎に行うという条項を特においたのは、各店において特殊の地域的事情があり中央において一律に協定することを不適当としたからである。組合はこの間の事情を知悉して労働協約を締結したものであつて中元時の休日営業及び時間延長は当然実施されるものとして前記協約条項が定められ従つて組合の各支部は会社と個別的に協議すべく、正当の理由がなくては協議を拒否し又は協定を成立せしめ得ない義務を負担するものである。従つて各店における組合の右協議の拒否は前記協約の条項に違反するものである。

(ロ) 申請人らは、各支部に対し、前記指令第二号は残業協定をも含む旨の解釈を指示し、よつて、組合をして、各店における基準法並に協約第四十九条に基く時間外労働の協定を遷延せしめて、会社の正常な業務の運営を阻害した。而して、協約第四十九条第一項には「会社は業務の都合により組合と協定して法令の定める範囲内において時間外勤務又は休日勤務させることがある」とあり、百貨店業においては、売場移転、店内清掃、商品検査等のため残業は不可欠であり、そのため組合は残業を協定すべき義務あるものとして前記協約条項が締結されたので、組合の前記行為は協約の右条項に違反するものである。

(ハ) 申請人らは、賃金改訂の紛争につき調停の申請を言明しながら、申請直前に前記のように指令第二号を発し、前記のように調停中もこれを維持し、更に右指令は残業協定をも含むとの拡張解釈を指示し、組合をして前記所為をなさしめたるをもつて、これは単に前記のように組合の協約違反に止まらず、組合をして争議行為を為さしめたるものにて、協約第百四十条には「会社及び組合は本協約締結の趣旨に基き、互に信義と誠実とを以て紛議の平和的解決に最善の努力を払うものとする」とあり、また第百四十一条には「前章の団体交渉において反覆協議するも解決できなかつたときは、当事者一方の申請により労働委員会に斡旋又は調停を依頼し、解決を図るように努めなければならない」とあり協約第百四十三条には「会社及び組合は労働委員会の斡旋調停又は仲裁中は争議行為を行わない」とあり、また、第百四十四条には「労働委員会の調停によつて解決をみない場合又は調停の申請された日より二十五日以上を経過した場合に会社又は組合がやむを得ず争議行為に入ろうとするときは四十八時間前に相手方に通告すべきものとする」とあるので組合をして右協約の条項に違反せしめたものである。

(ニ) 申請人らは、七月十六日午後八時翌十七日定時出勤の措置をとることを決し、翌十七日組合をして東京三店においてこれを敢行せしめた。会社の勤務時間は午前九時四十五分より午後五時四十五分であるが、防護部員は午前八時四十五分庶務雇員は午前九時出勤し、店内検索、シヤツターの捲上清掃等に当るのである。組合は当日厳重なピケラインをはり、防護部員、庶務雇員を含めた全従業員を午前九時四十五分まで入店せしめず、会社は出勤票を配布し適宜の措置をとつたため大事に至らなかつたが、これがため業務上の支障を来し対外信用を害せられたのである。これは明かに都労委の調停中の争議行為であつて前記協約第百四十三条及び第百四十四条に違反するものである。また、組合の右定時出勤の措置は、当時調停中の賃金改訂の紛争における組合の要求を貫徹するためにとられた争議行為であり、前記協約においては賃金体系が確立されているので、右措置は協約の平和義務違反であり、更に当時右紛争が協約に定める手続によつて妥結し得ない見通しはなかつたのであるから、右措置は補充の原則に反し不当のものである。即ち、申請人らは、前記措置により組合をして違法不当な争議行為をなさしめ、会社の規律秩序を紊乱し会社に損害を与え、会社の信用を害したものである。

(三)  よつて被申請人は、申請人らの以上の行為は協約第三十八条第一号及第二号の「会社は組合員が左の各号の一に該当するときは懲戒する、(1)規律を乱し秩序を破り、業務の正常な運営を阻害し又は常規を逸した行為のあつたとき、(2)故意怠慢過失又は監督不行届によつて事故を起し、あるいはこれによつて会社の信用を害し又は損害を生じたとき」に該当するものとし、協約第三十九条「懲戒は譴責罰俸及び懲戒解雇の三種とする」に従い、申請人らが協約締結時の組合役員で協約の趣旨を熟知しているに拘らず協約締結後僅に二箇月を出でないのに組合をして反覆して協約違反をなさしめたこと、都労委の勧告にも拘らず指令第二号の撤回を実質上拒否したこと、残業協定の不可避なるを知りながらこれを遷延せしめ会社をして基準法違反をなさしめんとの意図ありたること、八月九日の組合機関紙において「今回の措置はなまぬるかつた」と自己批判している事情及び申請人らの中央闘争委員会における役割等を考慮して前記のように解雇並に譴責の措置をとつたもので、これらの措置は正当なものである。

四、申請人らは、前記解雇及び譴責が考査委員会の議を経ずして為されたもので無効であると主張するが、前記のように組合の拒否によつて開催できなかつたもので何等非難される余地はない。また考査委員会は考査委員会規則第一条労働協約第四十五条により諮問機関である。即ち会社の人事権の具体的執行について慎重公正を期するための諮問機関であつて、会社側、組合側各五名をもつて組織すべきであるのに組合側の拒否で開催不可能となつたもので、これがため会社の人事権の行使が妨げらるべきものでなく、会社が本来の人事権にもとづいて為した前記懲戒処分は何等労働協約上不当ではない。

第三、被申請人の主張に対する申請人の主張

一、被申請人の主張する事実中、協約に被申請人の主張するような定めのあること、東京三店における出勤時間が被申請人の主張の通りであることは認めるが、調停案受諾の回答期限が十七日午後一時と定められ、組合側もこれを諒解したこと、中元時の休日営業及び時間延長が慣行であること、各店毎の協議の拒否及び所謂定時出勤が争議行為であること、七月十七日東京三店における出勤の状況その他はいづれも否認する。防護部員庶務雇員の早出出勤については会社と組合間に何等の協定もなかつたもので、それにも拘らず、会社は業務命令により早出出勤を命じていたものである。七月十七日東京三店における出勤は所定の午前九時四十五分には全員入店を終えたものにして、これがため営業の支障を来すような事情は存しなかつたのである。

二、協約第四十六条及び第四十八条における協議とは協定をなすべき義務を含むものでなく、当事者の一方又は双方において協定を欲しないときは自由に拒絶し得るものである。同条において各店毎に協議するとは支部労働協議会において協議ととのわない時は更にこれを中央労働協議会にかけることを意味し支部労働協議会の専管事項としたものでない。前記指令第二号により協定の成立が妨げられたとするも、それは組合内部の統制上の問題であり毫も協約違反となるものでない。

三、協約第四十九条における協定も組合の協定義務を定めたものでない。本来二の協定は期間を限り協定することが予想されているもので、労使双方の自由意思で結ばれるものであり、被申請人の主張するような残業の不可避、慣行はなく、残業協定を遷延させたとしても、協定違反となるものでない。

四、前記指令第二号は平時においても当然の措置であり争議行為でないから協約第百四十条第百四十一条及び第百四十三条、第百四十四条の違反は生じない。七月十七日の定時出勤については、午前九時四十分より入場を開始し同四十五分には全員入場を了したもので、勿論平時においては九時四十分前に入場する組合員もあるが、組合員は所定の拘束時間の開始時迄に入場するをもつて足り、使用者の管理する施設の所定の入口に到達し入所し得べき状態即ち使用者が欲すれば直に就労を指揮管理し得べき状態に自らをおけば足り、その以前は任意のサービスにほかならなく、防護部員及び庶務雇員も早出残業協定のない限り早出の義務を負うものでなく任意労務の提供をなし得るに過ぎない。組合の実施した右定時出勤は拘束時間外の任意のサービスの中止であり協約に違反する行為でもなく、また争議行為でもないから協約第百四十三条第百四十四条違反ということはできない。

五、仮りに組合のなした中元時における休日営業及び時間延長の協定拒否の指令の発令行為及び定時出勤等の団体行動が争議行為としても、争議行為であれば協約第四十六条第四十八条第四十九条の違反の問題を生ずる余地なく、一に平和条項の不遵守にかゝるところ、組合の機関決定により団体行動として為された行為については、協約上の責任追求の方法としては、機関たる個人の責任を問うことは出来ない。また使用者と個々の労働者との間の労働契約上の責任追及の方法である懲戒処分をもつて組合の機関の責任を追及することは出来ない。従つて前記懲戒処分は不当である。

仮に、組合の平和条項違反につき機関を懲戒処分に附し得るとするも、平和条項は争議前通告を行わなかつた等手続上の違反行為に過ぎないのであつて、これをもつて懲戒解雇の如き生活権を奪うような処分に附することは明に失当である。而も申請人らは協約違反にならないとの見解の下になしたもので協約違反の故意はなく、仮に過失による協約違反ありとするもこれに懲戒規定を適用することは不当である。

第四、疎明<省略>

四、理  由

第一、被申請人(以下会社という)が百貨店業等を営む株式会社にして、申請人らの主張するように各地に本店並に支店を有し、申請人組合が、その主張のように右会社の従業員をもつて組織する単一組織の労働組合で本店及各支店にその支部を有し、組合を除くその余の申請人らが、会社の従業員で右組合の組合員であること、被申請人が昭和二十六年十月二十五日申請人らの主張するように解雇の意思表示並に譴責の処分をなしたことは、本件当事者間に争のないところである。

而して、

一、昭和二十六年四月二十七日会社と組合の間に現行労働協約が締結されたところ、同年五月二日組合より賃金改訂の要求があつて、申請人ら主張の如き経緯により、中央労働協議会が開催され、団体交渉がなされたが六月十九日遂に決裂するに至つたこと、組合は同日直に中央闘争委員会を組織し、申請人らがその主張のように中央闘争委員等となり、右闘争委員会において、中元時における休日営業及び時間延長の協議を一切拒否すべき旨の指令を決し、同日これを各支部に発したこと、同月二十日組合は、右賃金改訂の紛議につき東京都地方労働委員会(以下都労委という)に調停を申請し、申請人ら主張のように、調停が進められ、七月十日都労委より調停案が提示され、諾否の回答期限を同月十六日正午と定められたところ、右十六日組合は右調停案を受諾したが、会社においては、条件を附して受諾する意向を回答したため、都労委は会社に対し条件を撤回して調停案を受諾することを勧め、会社は翌十七日に至りこれを承諾し、同日午後五時頃附帯的協定を結び前記賃金改訂の紛議につき右調停案通りの調停が成立するに至つたこと(右条件撤回の勧告に対する会社の回答期限が十六日午後八時であつたか十七日午後一時であつたかについては当事者間に争あり)、その間、会社は、六月二十九日組合に対し前記指令の撤回を要望し、更に七月三日抗議文をもつて右指令の撤回を要求し、都労委においても七月五日組合に対し調停案が一方によつて拒否されるまで右指令を停止するよう希望し、会社と組合において折渉したるも遂に指令撤回につき妥協成立せず、組合は右指令を撤回するに至らなかつたこと(右妥協不成立の事情については当事者間に争あり)一方右中央闘争委員会は、七月十六日夜翌十七日東京三店において所謂定時出勤の措置をとることを決し、翌十七日朝申請人ら中央闘争委員が分れて東京三店に臨み出勤して来た組合員に対し入場を指示したこと、(組合員の全部が所定の午前九時四十五分に入場を了したか否かについては当事者間に争あり)。

二、その後七月二十一日、会社が組合に対し、申請人らの主張するように、前記中元時における休日営業及び時間延長の協議の拒否を信義則に反するものとし、また前記定時出勤の措置を協約第百四十三条第百四十四条違反の争議行為として組合の責任を追及する権利を保留する旨通告し、更に九月二十五日会社が組合に対し、申請人らの主張するように、組合の右協議拒否の措置を協約第四十六条第四十八条第四十九条に右定時出勤の措置を協約第百四十条第百四十三条第百四十四条にそれぞれ違反するものとして、これを議題とする中央苦情処理協議会の開催を求め、同協議会が開催されたが妥結するに至らなかつたこと、その後十月十二日会社が組合の右協約違反につき中央闘争委員の責任を検討し懲戒にするため中央考査委員会の開催を求めたが、組合は団体交渉を求め、会社組合一致せずいづれも開催されずして推移し、十月二十五日に至り会社が前記のように解雇の意思表示をなし譴責の処分をなしたことは、いづれも本件当事者間に争のないところである。

第二、申請人らは、まづ、右解雇並に譴責は懲戒事由を欠く不当のものにして申請人らの組合活動を理由とする不当労働行為であると主張し、被申請人は、これを否認し懲戒事由ある有効なる解雇並に譴責であると主張するので、まづ、その事由の存否並に当否を判断する。

一、よつて、まづ、被申請人主張の懲戒事由の存否につき案ずるに、

(一)  申請人らが前記のように指令第二号を各支部に発したること、協約第四十六条第二項、第四十八条第二項、第四十九条第一項に被申請人の主張するような定めのあることは当事者間に争なく、成立を認め得る乙第十六号の一乃至五第四十乃至第四十三号によれば本店においては六月八日会社より、中元時の休日七月九日の営業及び午後五時三十分までの営業時間の延長等が、新宿支店においては、六月十五日会社より中元時の休日七月九日の営業及び平日午後五時三十分まで土曜日、日曜日、祭日、午後六時までの営業時間の延長等が、銀座支店においては六月十二日会社より、中元時の休日七月九日の営業及び平日三十分、土曜日、日曜日一時間の営業時間延長等が提案され、組合側との間に協議が進められたが、いづれも右指令のありたるため、その故に組合側より協議を打切るに至り、大阪支店においては、六月二十九日会社より七月一日より八月末日まで営業時間を午後五時三十分までとすることの提案があり、会社と組合側との間に若干の応答があつたが、組合側において右指令の故に協議に応ぜず、仙台支店においては六月二十八日会社より中元時の休日営業及び時間延長の申入れありたるも組合側は右指令の故に協議に応じなかつたこと、並に、右東京三店及びその他の支店において、ついに、中元時の休日営業及び時間延長の措置がとられなかつたことが、一応疎明される。

而して、成立に争のない甲第二号(労働協約)によれば、第四十六条は、第一項においては勤務時間を定め、第二項においては、始業及び終業の時刻について規定しているのでここに始業及び終業の時刻とは、特別の事情の疎明のない限り、勤務時刻をさすものと解され、営業時刻を意味するものとは解されない。勤務時刻については、会社が各店毎に組合と協議して定めること即ち会社において各店毎にこれを定めることが出来るが、その場合には組合と協議しなければならないことを定めたものと解せられる。また第四十八条は第一項において休日を毎週月曜日及び年頭三日と定め、その但書で歳末時の休日の一日を各店毎に組合と協議の上他の日に変更するとしており、これは歳末時の月曜日の一日は右の例外をなすこと即ち休日にあらざることを定めたものと解せられ、同条第二項及び第三項においては、第一項但書と異り、第一項の休日の変更又は振替えること即ち第一項により休日と定まつていても特定の場合には変更又は振替えることを定めているものと解せられ同様に変更なる文言を用いているが第一項但書においては、歳末時の休日の定め方を規定し第二項においては既に定められている休日の変更を規定したものと解せられる。而して成立を認め得る乙第四十号により、中元時の営業が百貨店業にとり重要な意義を有し、歳末時の営業と多く異らないことを、一応認め得ること、第四十八条において変更又は振替えの場合をほゞ特定し、一応休日を定めるがこれを固定的となさず特定の場合においては各店の事情に応じ変更又は振替えて対処せんとする趣旨が伺われること及び会社は協議の上変更することがあると記載しあることに鑑みれば右第四十八条第二項は会社に各店毎に休日を変更することを許容し、(これは労働基準法第三十五条に違反しない限り許されるところであつて)その場合においては各店毎に組合と協議することを定めたものと解せられ、会社に組合と協議すべき義務を負担せしめたる趣旨と解するを相当と考える。而して組合が以上の協議に故なく応じない場合には協議権の濫用の問題の生ずる余地あることは勿論なるも、これとともに右第四十六条第四十八条は変更につき組合の協力を求めていることも明かなるをもつて、協議を成立せしめるか否かは当事者双方の自由意思に属するところであるが、協議に応ずると否とを自由に放任したものとは解せられず、会社並に組合が信義に則り協議をつくすべき義務を定めたものと解せざるを得ない。第四十九条は労働基準法第三十六条に則り定められたるものと解され、この場合においては、使用者の一方的に決し得るところでなく必ず協定によるほかないのであるから、かような協約のない限り、組合は協議を成立せしめる義務なきは勿論、協議に応ずべき義務も負担もないものと考えるほかないが協約において右の如く定められている以上、労働基準法第三十六条に従い協定する場合にそなえて右の如く定められたものと解せられるので、会社並に組合の信義に則り協議をつくすべき義務を定めたものと解せざるを得ない。而して、前認定の協議についての組合の態度は、以上の趣旨における協議をつくしたものと考えられるので、これは前記協約条項に違反するものとなさゞるを得ない。然れども、右協議を成立せしめると否とは当事者双方の自由に属し、組合において協議をつくしても協議の成立しない場合もあり得るのであつて特別の事情の疎明のない本件においては、前記のように中元営業並に時間延長の措置をとり得なかつたことを組合の協約違反に帰せしめるに由ないものと言わねばならない。

(二)  成立を認め得る乙第十七号の一乃至六によれば、東京三店における昭和二十六年六月一日乃至七月三十一日間の時間外労働に関する協定及び休日労働に関する協定が七月二十日頃漸く成立し七月二十日及び七月二十七日に届出られたことは、一応これを認め得るも、申請人らが前記指令第二号につき如何なる拡張解釈を指示し右協定が如何なる事情で遷延したかについては、これを認めるに足る十分なる疎明がない。よつて右事実にもとづく被申請人の協約違反の主張は採用の余地がない。

(三)  被申請人は、調停中において前記中元時における休日営業及び時間延長について組合が協議をつくさなかつたことをもつて協約第百四十条第百四十一条第百四十三条第百四十四条に違反するものと主張し、右協約条項に被申請人の主張するような定めのあることは当事者間に争なく、組合が当時会社との賃金改訂の紛議につき会社に苦痛を与え、よつて会社に譲歩を促す手段として前記指令に基き前記協議をつくさなかつたことは、前記争なき事実の経過に照し一応認め得るが、これをもつて右協約条項にいう争議行為と解するに由なく、また右協約第百四十条にいう「平和的解決の努力」と甚だしく異るものとはなし得ないので、この点の被申請人の主張は採用の限りでない。

(四)  申請人らが七月十六日夜翌十七日東京三店において所謂定時出勤の措置をとることを決し翌十七日朝申請人ら中央闘争委員が分れて東京三店に臨み組合員の入場を指示したること及び東京三店においては勤務時間は午前九時四十五分より午後五時四十五分までと定められていたことは当事者間に争のないところである。成立を認め得る乙第四十乃至第四十三号によれば、当時東京三店においては、組合との間に協定は結ばれていなかつたが、防護部員は午前八時四十五分庶務雇員は午前九時までに入場し、店内の清掃シヤツターの捲上げその他に従事し、一般従業員は午前九時四十五分までに一箇の従業員入口より入場し、入口近くに置きある各部毎の出勤簿に捺印し、地下室等において更衣しエレベーター等を利用して各職場に行き十時の開店に間に合せていたこと、十七日朝東京三店においては午前九時四十五分以前より防護部員庶務雇員を含む多数の従業員がいづれも従業員入口の近くに集り、申請人ら中央闘争委員の指示に従い、右四十五分の僅か以前より順次入場しはじめ、当時は入口における出勤簿の捺印に代え出勤票が入口で手渡され、各職場に進みたるが、午前九時四十五分には三店とも全部の出勤者の入場を了しなかつたこと、かくて通行、エレベーターの利用等の混雑もあつて、平常のようには用意整わずして十時の開店となり、平常の執務状況になるまでなお十分乃至二十分を要したることを一応認めることが出来る。申請人らは東京三店とも午前九時四十五分には全員入場したと主張し成立を認め得る甲第三十二号、第四十一号にはこれに副う記載があるが、前記疎明資料と比較対照するときは、にわかに措信し難い。而して組合の右措置は、右疎明された事実と前記争なき事実の経過を綜合すれば、組合が会社をして都労委の調停案を受諾せしめ、これにより調停を成立せしめて自己の要求を調停案の限度において貫徹せんとして為したるものなることを伺い得べく、また、従業員の全員が午前九時四十五分までに入場を了しなかつたこと及び組合の右措置により会社の業務の運営に支障を来さしめたことが前記のように一応認められる以上、組合の右措置は、所謂定時出勤の措置が争議行為なりや否やはとも角、協約第百四十三条第百四十四条にいう争議行為に当るものと解せざるを得ない。尤も前記のような入場の施設においては、数百名或は千数百名の従業員が所定の午前九時四十五分の直前に、一時に入場せんとするときは、その大部分が所定時刻までに入場し得ないことは見易きところであり、十七日朝多数従業員が所定時刻前に入場口近くにいたることは前認定の通りであるが、通常の状態において特別の支障なく入場し得る施設ある場合において偶然の事情によつて多数従業員が一時に殺到して入場し得なくもこれを従業員の責に帰せしめるを得ないが、多数従業員において故意にかような状態を惹起せしめた場合には、入場し得ざる責は多数従業員にあるものというべく、本件においては前認定のように、前記入場施設により従来支障なく従業員の入場が行われ来たこと及び十七日朝においては多数従業員が所定時刻前に多数来集したるに拘らず中央闘争委員が入場を指示し多数殺到するの状態を惹起したることが一応認められるので、所定の午前九時四十五分に全員入場を了しなかつた責を免れることは出来ないものと解せられる。而して前記乙第四十号によれば、七月十六日夜には会社の回答はなかつたが、これをもつて調停不成立となされず調停継続のまま同日を経過し十七日続いて調停の進められたことを伺い得るので、組合の右措置は調停中のものというべく協約第百四十三条第百四十四条に違反するものと為さざるを得ない。従つて申請人らは前記のように所謂定時出勤の措置を決し組合をして右協約に違反する争議行為をなさしめ会社の業務の運営に支障を来さしめたるものと言わざるを得ない。

(五)  なお、被申請人は、前記組合の協議の拒否及び定時出勤の措置をもつて協約の平和義務に違反し、補充の原則に違反すると主張するが、前記のように、賃金の改訂については、組合は、協約締結前の四月二十四日に、既にこれを決していたことが認められ前記乙第四十号甲第四十号によれば協約締結に際し会社と組合間において、右賃金改訂を右協約をもつて定めることは早急には困難なるをもつて、一応協約を締結して後右賃金改訂につき協議することの諒解ありたることが一応認められるので、組合の前記措置を協約の平和義務違反となすに由なく、また組合の前記措置をもつて補充の原則に違反するとなすに足る疎明が十分でない。

二、協約第三十八条及び第三十九条に、被申請人の主張するような定めのあることは当事者間に争のないところにして、前記申請人らの所為が右懲戒事由に該当するか否かを判断する。

申請人らが、組合をして中元時における休日営業及び時間延長の協議を拒否せしめたことは、前認定の通りであるが、これによつて会社の義務の運営を阻害し或は会社の信用を害し又は損害を生ぜしめたることについては、前記のように疎明ありとは為し難い。よつて申請人らの右措置が協約第三十八条第一号にいう規律を乱し秩序を破る場合に該当するかを案ずるに、前記甲第二号(労働協約)によれば、同条は企業内における一種の処罰を規定したものにして、同じく解雇にしても他の事由による解雇とその事由及び退職金その他の取扱いにおいて甚だしく異ることが明かであるから、同条は処罰規定としてその趣旨において解さねばならぬところ、同条をその他の協約条項と対照してみるときは、同条にいう規律とか秩序とは会社の企業をはなれて考えられるに由なく、会社の企業経営を保障するための規律及び秩序であつて経営権(協約第一条にいう)の支配する範囲に止り会社と従業員という関係における規律及び秩序をいうものと考えられる。前記第四十六条第四十八条第四十九条の組合の協議をつくすべき義務の如きは企業の運営上当然にともなうものでなく協約に定められて、はじめて生ずるものであつて、これによつて設定されるのは会社と従業員と言う関係とは別個の、会社と組合との関係にして、これを規律又は秩序ということを得ても、それは会社と組合間の規律又は秩序であつて、会社と従業員と言う関係における規律又は秩序とは別個のものと考えられる。従つて、組合をして右義務に違背せしめても、直ちにこれをもつて、前記規律及び秩序を紊すものとは言えないものと考えられる。尤も組合と会社の以上の関係を利用して、会社の業務を阻害するため組合をして義務を不履行せしめるは、規律及び秩序を紊るとは言えなくも、会社の協約上の権利を害するものと言い得べきも組合の機関としてなす者については、特段の事情の疎明のない限りかような権利侵害あるものとは考えられない。而して申請人らが組合をして前記協議義務に違反せしめたというに止り、他に特段の疎明のない本件においては、これを前記懲戒事由に該当するものとはなし得ないと言わねばならない。次に協約第百四十三条及び第百四十四条は、組合についてみれば、争議権の行使につき組合に義務を負担せしめ、その遵守されることにより争議権の行使が自然に制限される結果を来すことを目的としたものと解せられ、争議権の行使を直接制限したものとは解せられない。然らば、同条に違反する争議権の行使も右義務の不履行に止り、信義に反し或は争議権の濫用の場合はあり得ても、争議権の行使を直に禁止を犯すものと断ずることができないものと考えられる。従つてかような争議権の行使の場合においては、前記義務の不履行を伴うに止り、争議行為を組成する個々の行為が違法なる場合と異り一般組合員についてはその争議行為を労働組合法第七条にいう正当な組合活動とみるべきものと言わねばならない。申請人らが組合をして前記協約違反の争議行為をなさしめたることは、組合をして右協約に定める義務を不履行せしめたるもので、これが会社と組合との間に設定されたる関係を乱すことは言うまでもないが、これが企業に本来存する規律並に秩序と別個のものと考えられること前記の通りであるので、申請人らの右行為をもつて前記協約にいう規律を乱し秩序を破るものとはなし得ないものと考えられる。

尤も以上のように組合をして協約違反をなさしめるが如き従業員は会社の企業の運営を阻害し規律を乱し秩序を破る虞あるものとなすは一概に否定し得ないが、懲戒は企業内における一種の処罰であつてこの虞をもつて懲戒事由となすはその当を得ざるものとなさざるを得ない。而して、組合の前記定時出勤の措置により会社が業務の運営に支障を来したことは、前認定の通りであり、組合に対し前記協約条項の義務不履行を理由に、それによつて生ずる損害の賠償を求め得るは勿論であるが、前記の如く争議権を制限したものと解せられない以上、前記協約条項は右損害賠償の請求によつてその締結の趣旨を完うするものと考えられるので、右定時出勤の措置による損害は争議行為として免責されるものと考えざるを得ない。従つて前記のように会社の業務の運営に支障を来したることをもつて、前記協約第三十八条にいう業務の運営を阻害し会社の信用を害し損害を生ぜしめたる場合に該当せしめるは、その当を欠くものとなさざるを得ない。

第三、よつて、申請人A外五名の前記解雇の当否について考えるに、被申請人の主張する懲戒解雇の事由は、結局前記のように疎明を欠くことになり、前記解雇の意思表示は、懲戒解雇をなし得る場合を定めた前記協約の条項に該当せず、その効力を生じないものと為さざるを得ない。而して、被申請人の主張に照せば、右懲戒解雇を、これと甚だしく異ること前記甲第二号(労働協約)に照し明かなる、他の事由による解雇として判断するに由なきをもつて、右申請人らが、現に、被申請人との間に、従前通りの従業員たる法律関係を有することを肯定せざるを得ない。然らば、更に疎明を検討して判断すべき申請人らの他の主張につき判断するまでもなく、仮処分における請求は一応その疎明ありたるものとなさざるを得ない。

第四、次に申請人らの主張する譴責について判断する。前記協約第三十八条及び第三十九条によれば、組合員が所定の事項に該当するときは会社が懲戒すること、懲戒には譴責、罰俸及び懲戒解雇の三種あること及び譴責は始末書を提出させて将来を戒めることを定めているので、譴責は、会社が右条項を適用してなす判断とみるべきで、これを所謂意思表示と解するに由なく、また会社と従業員との法律関係を設定変更或は消滅せしむべき結果を来すものとは解せられなく、以上を左右するに足る何等の疎明もない。従つて、譴責については、当不当はあり得ても、またその存否は問題となり得ても、意思表示としての効力の有無を生ずる余地なきものと考えざるを得ない。然らば、これを不当労働行為として労働委員会の救済を求め、或はこれをもつて不法行為として損害賠償を求めるはとも角これを無効として確認訴訟を提起するは、許されざるところと考えざるを得なく、この請求を保全するための仮処分請求は、請求の疎明なきに帰するものと言わざるを得ない。よつて申請人組合及び申請人G外八名のこの点の申請は、その他の点につき判断するまでもなく理由なしとして却下すべきものと言わざるを得ない。

第五、申請人A外五名が会社を唯一の職場とし、その得る賃金によつて生計を維持していることは、前記疎明によつて一応推認し得るところであり、前記のように同人らに対する解雇の意思表示が無効であるのに、右申請人らが被申請人より解雇されたものとして取扱われることは、現下の社会経済の状況の下においては、甚だしい損害にして容易に回復し得ないものと一応考えられ、右申請人らにつきこれを左右すべき事情につき特段の疎明なきをもつて、右申請人らには、被申請人との間の前記法律関係の確定を求める本案訴訟の確定に至るまで、仮に右法律関係の設定を求める必要あるものと為さゞるを得ない、また申請人組合が、その組合役員である右申請人らが前記のように解雇されたものとして取扱われることにより、その組合活動に支障を来し甚だしい損害を受けることは前記疎明に照し一応首肯し得るところであり、従つて、申請人組合が、右申請人らと被申請人との間に従業員たる法律関係のあることの確定を求める訴につきその利益を有するものと一応認められるので、申請人組合が、これを本案訴訟とする保全請求権を有することは否定し得べくもなく、而して、申請人組合について、前記損害の事情を左右するに足る疎明なき限り、仮処分の必要あるものとなさゞるを得ない。本件仮処分の申請の趣旨並に理由に徴すれば、前記解雇の意思表示の効力が停止されれば、これによつて任意に被申請人が右申請人らを従来の如く従業員として取扱う事情にあつて、これによつて右申請人らの従業員たる地位が一応保全されるとする趣旨が伺われるので、解雇の意思表示の効力を停止することにより右申請人らの前記請求を保全するに足るものと為さざるを得ない。

よつて本件申請中申請人組合及び申請人A外五名の申請を理由あるものとし、申請人A外五名に対する被申請人の前記解雇の意思表示の効力を停止するものとし、その余の申請人組合及び申請人G外八名の申請を理由なしとして却下するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条に則り主文の通り判決する。

(裁判官 脇屋寿夫 三和田大士 丸山武夫)

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